【この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません】
第1話:朝の鹹豆漿に、微熱の予感
高雄の朝は、予想よりもずっとやさしい香りがした。
ホテルのロビーに、彼はもういた。
タロス。日本から来た、声だけで人をとろかすYOUTUBER。
でも今、目の前に立っているのは、画面越しじゃない「彼」だった。
「おはよう、ジュジュくん。……いい匂いするね、豆漿の匂いかな」
その声に、心臓が少し跳ねた。朝なのに、体温が上がっていく。
舞台:興隆居
ふたりが並んで買ったのは、高雄名物の鹹豆漿(シェンドウジャン)と蛋餅(ダンビン)。
口の中でとろける豆漿のやさしさに思わず笑みがこぼれる。
「……これ、タロスさんも飲んでみて?熱いから、ゆっくりね」
スプーンを差し出すジュジュの指が、タロスの唇にふれた。
「あ、……ごめんなさい!」
「……ん、やさしい味。君に似てるね」
その言葉と視線に、豆漿よりも熱くなったのは、心だった。
第2話:市場で滷肉飯、ふたりきりの距離
舞台:三民市場
「台湾の市場って、すごいね。こんなに食べ物に囲まれるなんて初めて」
タロスが目を輝かせる。
ジュジュは地元っ子らしく、おばちゃんたちと談笑しながら滷肉飯を二つ注文した。
「タロスさん、こっち座って。あ、ほら、スープもついてくるから」
「ありがと。……こうしてジュジュくんと並んで食べるの、なんか新鮮だね。普段はカメラ越しなのに」
滷肉飯の香りと、ふたりの間の距離。
すれ違う市場のざわめきさえ、ふたりだけの世界を邪魔できない。
「ここの味、俺……ずっと忘れられなさそうだな」
「じゃあ、また来ましょうよ。次も一緒に」
言った瞬間、ジュジュの頬が少し赤くなっていた。
第3話:豆花の午後、甘さと沈黙
舞台:古民家カフェ「小本愛玉」
「……静かだね、ここ」
「うん……なんか、落ち着きますね」
ふたりで座る木陰のテラス。
テーブルには、冷たい豆花。黒糖シロップに、芋圓とピーナッツがたっぷり。
タロスがスプーンですくい、ジュジュに差し出す。
「食べさせてあげよっか?」
「えっ……? い、いいですよ、自分で……」
「ほら、あーん」
甘い豆花よりも甘いその声に、ジュジュの鼓動は止まらなかった。
第4話:夜市の誘惑、ふたりの秘密
舞台:瑞豊夜市
ジュジュが一番好きな場所、それは夜市。
けれど今日は、いつもと違った。
タロスがジュジュの手を、そっと握ったのだ。
「……迷子になったら困るでしょ?」
「は、はい……」
握た手のぬくもりに、地瓜球の熱さも敵わない。
「臭豆腐、初めてなんだよね」
「タロスさん、大丈夫かな……匂い、強いから」
「君が勧めてくれたなら、きっと美味しいはずだよ」
一口食べて、顔をしかめるタロス。
「うわ、クセある……けど、クセになるかも。ジュジュくんも、クセになる……?」
その言葉に、ジュジュは屋台の明かりに紛れてうつむいた。
顔が熱いのは、香辛料のせいじゃない。
第5話:おみやげの箱に、隠した想い
舞台:駁二藝術特區の雑貨屋
「これ、日本って帰ったら、きっと話題になるな」
「それ、俺も買いますよ。……なんか、思い出になりそうだし」
ふたりが選んだのは、おそろいのパイナップルケーキ。
それぞれの箱に、こっそり手紙を忍ばせる。
ジュジュは書いた。
「また、来てください。次は……観光じゃなくて、もっと近くにいてほしいです」
そしてタロスも書いていた。
「本当は、君に会いに来たんだ。高雄じゃなくて、君を知りたくて」
第6話:朝の鹹豆漿に、微熱の予感
舞台:興隆居/朝6時の高雄
朝霧に包まれた高雄の街を、ジュジュは眠そうな目をこすりながら歩いていた。
けれど、角を曲がった瞬間——彼がいた。
「おはよう、ジュジュくん。早起きできたんだね」
タロスが微笑む。
キャップにサングラス、でも隠しきれない彼の存在感。
YOUTuberとしての彼しか知らなかったのに、実際に会ってみると……その距離の近さに、ジュジュの心臓は高鳴っていた。
「案内してくれるって、言ってくれたから……がんばって起きました」
ふたりは並んで、朝食の名店「興隆居」へ。すでに行列ができている。
ジュジュが頼んだのは、鹹豆漿と蛋餅。
豆漿の優しい香りがふたりの間にふわっと漂い、まだ静かな朝をやわらかく染めた。
「熱いから、ゆっくり……あ、ほら、こぼれそう」
思わず手が重なり、タロスの指先にふれてしまう。
その一瞬に流れる沈黙。
豆漿の湯気よりも熱くなる頬。
そして、彼の言葉——
「君の手、あったかいね。豆漿と同じくらい」
——ジュジュの心は、すでに何かに火がつきかけていた。
第7話:市場で滷肉飯、ふたりきりの距離
舞台:三民市場/昼11時半
地元の市場は、観光地とは違う“生活の温度”がある。
色とりどりの野菜、熱気のある声、そして香ばしい肉の匂い。
「わあ、これが台湾の市場……すごいな。どこ見ても美味しそう」
タロスはカメラを片手に、目を輝かせていた。
ジュジュは慣れた足取りで、滷肉飯の名店へ案内する。
「ここのルーローファン、八角が強すぎなくて、日本人にも食べやすいと思いますよ」
「じゃあ……ジュジュくんのおすすめ、信じてみようかな」
ふたりで並んで座る小さなテーブル。
ジュジュは、滷肉飯の上にのった半熟卵を、そっとスプーンで割る。
とろりと黄身が溶ける瞬間、タロスが目を細めて呟いた。
「……この感じ、なんかエロいな」
「えっ……!」
「……ごめん、つい口に出ちゃった。けど……その顔、もっと見たいな」
言葉を飲み込んだジュジュ。
ルーローファンの熱さか、心の奥のざわめきか、もうわからなかった。
第8話:豆花の午後、甘さと沈黙
舞台:古民家カフェ「小本愛玉」/午後3時
昼下がり、蝉の声が遠く響くカフェの縁側。
風鈴の音が、ふたりの静けさにアクセントを添える。
ジュジュが注文したのは、黒糖豆花。
その冷たさが、今日の暑さを忘れさせる。
「ねえ、ジュジュくん。……あーん、してみて?」
タロスの言葉に、ジュジュの手が止まる。
彼がスプーンで掬った豆花を、ためらいながら口に含む。
「……甘い」
「でしょ?でも、君の方が……甘いかも」
ジュジュの瞳が泳ぐ。
豆花のなめらかさと、彼の視線の熱さが、喉を通って心に降りてくる。
——まるで告白されたような午後。
けれど言葉はなく、風だけが通り過ぎていった。
第9話:夜市の誘惑、ふたりの秘密
舞台:瑞豊夜市/午後7時
ネオンが灯る夜市の入口。
屋台からは、唐揚げやスパイスの匂いが立ちこめていた。
「手、つないでいい?」
いきなりだった。
けれどジュジュは、うなずいてしまった。
タロスの手は大きくて、でも力強く握ってはこなかった。
「迷子になったら、困るから」
けれど、その理由よりも、握った手の温度が嘘をつけない。
ふたりは、地瓜球、臭豆腐、牛肉捲餅と、次々に屋台グルメを食べ歩いた。
けれど、どの料理よりも、タロスの視線がいちばん刺激的だった。
「臭豆腐、クセあるけど……俺、クセになるもの好きかも」
「ジュジュくんも、そういうタイプだよね?」
言葉の意味を考える前に、心が反応してしまう。
匂いも騒音も、ふたりの間の鼓動を遮ることはできなかった。
第10話:おみやげの箱に、隠した想い
舞台:駁二藝術特區/夜8時半
一日が終わる頃、ふたりはアート雑貨店に入った。
見つけたのは、パイナップルケーキの美しいパッケージ。
「これ、お土産にぴったりですね。……自分にも買っておこうかな」
「俺も。……同じのにしよっか」
レジの前で、ふたりは目を合わせて笑う。
けれど、その箱の中に、ジュジュは小さな紙切れを滑り込ませた。
「また、来てください。次は、ガイドじゃなくて……もっと、近くでいたいです」
——そして後日、日本に戻ったタロスは、同じように紙片を見つける。
「本当は、高雄のグルメよりも、君に会いに来たんだ」
——箱の中には、食べきれない想いと、始まりの予感が詰まっていた。
第11話:ジュジュのおうちでホームステイ——初めてのふたりきりの夜
舞台:高雄・ジュジュの自宅/午後11時
「……本当に泊まっていいの?ホテルでも全然——」
「ダメです。今日は特別ゲストなんですから。……それに、もう最終日でしょ?」
「……うん。そうだね。……最終日、か」
タロスは少し寂しそうに笑った。
小さなアパートの一室。だけど、観葉植物が丁寧に並べられていて、手料理の匂いがほんのり漂う。そこは間違いなく、ジュジュという人間の“暮らし”が息づく空間だった。
「今日は、夜市の食べすぎでお腹いっぱいだと思いますけど……ちょっとだけ、地元の料理作っておきました」
テーブルに並んだのは、家庭的な虱目魚粥(サバヒー粥)と菜脯蛋(切り干し大根入り卵焼き)。
湯気が立ちのぼるその光景に、タロスの喉がすっと鳴る。
「……こういうの、初めてかも。君の家で、君の作ったごはん食べるって……」
「……実は俺も。誰かのためにこんなに準備したの、初めてかも」
ふたりの間に、ゆっくりと時間が流れる。
さっきまでにぎやかだった夜市とは対照的に、静かで、あたたかい——
まるで“ふたりだけの世界”が、ここに確かに存在している。
「この粥、優しい味だね。……まるで、君みたい」
そんな言葉が、今夜はまっすぐに刺さる。
ジュジュは、お箸を持つ指をそっとタロスの手に重ねた。
「タロスさん……明日、帰るんですよね」
「うん。帰らなきゃ。でも……ほんとは、もっとここにいたい」
沈黙。けれど、その沈黙は、もう言葉以上だった。
タロスが立ち上がり、ゆっくりと近づく。
「……キス、してもいい?」
ジュジュは、うなずいた。
そして、ふたりの唇がふれあう瞬間、
高雄の夜は、静かに甘く溶けていった——。
第12話:雨の中の告白、タピオカミルクティーに隠した言葉
翌日、ジュジュは空港へ向かうタロスを見送る途中、ふたりで立ち寄ったドリンクスタンド。
雨の中、傘もささずにタロスが差し出すタピオカミルクティーには、ある**“隠されたメッセージ”**が……?
「タロスさん。……俺、たぶん……」
「——まだ言わないで。空港まで、あと10分あるだろ?」
——そんな第7話も、続けてお届けできます。読みたいですか?それとも、タロス視点の番外編を先に出それでは…お届けします。
第7話:雨の中の告白、タピオカミルクティーに隠した言葉
ふたりの関係が静かに、でも確実に変わり始める一日です。
第13話:雨の中の告白、タピオカミルクティーに隠した言葉
舞台:高雄市内 → 小港空港/午前10時、雨のち曇り
タクシーに乗る直前、ジュジュはタロスと小さなドリンクスタンドに立ち寄った。
雨上がりの街。舗道には小さな水たまりが光を反射している。
「最後に飲みたかったんだ、台湾のタピオカミルクティー。……ほら、君と一緒にね」
「……もう“最後”って言わないでくださいよ」
ジュジュは視線をそらし、ストローを袋から抜いた。
ふたりが選んだのは、それぞれ「焙煎黒糖珍珠奶茶」と「ジャスミン緑茶」。
カップに印刷された「幸せな時間は、すぐそばにある」という言葉が、やけに心に引っかかる。
「ねえ、これ飲み終わるまで、空港行くの待ってて」
「……え? でも時間……」
「いいから。あと10分だけ、君と一緒にいたいんだ」
沈黙のまま並んで座るバス停のベンチ。
紙コップの中で、タピオカがカランと音を立てる。
「ジュジュくんさ……あのさ、俺、日本に帰ったら、きっとまた会いたくなると思うんだよね」
「……俺も、たぶん、そうだと思ってました」
雨の匂い、ミルクティーの甘い香り、そして、互いの吐息が交じる距離。
タロスがそっと、ジュジュの手に自分のスマホを渡した。
ホーム画面にはふたりの写真。夜市で撮った、他愛もない笑顔。
「この写真、待ち受けにしてたら……帰っても、寂しくないかな?」
「ダメです」
「えっ」
「……それだけで満足されたら、俺……また寂しくなっちゃうから。ちゃんと、会いに来てください」
その瞬間、タロスがジュジュをそっと抱きしめた。
「約束する。また来る。何回でも来るから——今度は観光じゃなくて、……君を愛しに来るから」
その夜、ジュジュの自宅の冷蔵庫には、タロスが飲み残したミルクティーが残されていた。
そのカップの裏には、彼がこっそり貼り付けた小さなメモが。
「I’ll be back. For you, only you.」
第14話:タロス帰国編「距離と想いの7日間」
- タロス視点で描かれる、日本に戻ってからの彼の日々。
- 声に出せない想い、配信に混じる微かな恋心。
- ジュジュから届いたある“音声メッセージ”が、彼
では…いよいよ次の章へ。
今回はタロス視点で、遠く離れた日本からの“想いの波”を描きます。
舞台:日本・東京/帰国1日目〜7日目
【Day 1】
飛行機の窓から見下ろす曇った東京の空。
高雄の熱気が嘘みたいに感じる。
「ただいま配信、始めます。今日はちょっとだけ、ゆっくり雑談しようか」
リスナーにバレないように、声のテンションを上げる。
でも、本当は心の奥がすうっと冷えていた。
『台湾どうだった?』『グルメすごかったでしょ!』
コメントは明るくて、でもジュジュの名前を言えない自分がもどかしい。
夜、ベッドに寝転びながら、スマホを握りしめた。
開くのは、ジュジュとのLINE。
「無事に着きました」
「……もうちょっとだけ、そっちにいたかったな」
送って、消した。何回も。
【Day 3】
昼の収録中、スタッフに言われた。
「タロスさん、今日ちょっと声、違くない?」
「……そっかな。風邪かも」
いや違う。
高雄で、ジュジュの家で見せた“あの素の声”を、つい使いそうになる。
VTuberとしての“キャラ”に戻るのが、なんだか辛い。
夜、YouTubeで高雄の風景動画を再生しながら、夕飯を食べる。
ふいに、ジュジュの笑顔が脳裏をかすめた。
「この粥、優しい味だね」
「……君みたい」
——思い出すたび、息が詰まる。
【Day 5】
配信の終わり際、マシュマロにこんな質問が届いた。
『最近、恋してますか?』
一瞬、答えるのをためらった。
けど、ふっと笑ってから言った。
「……そうだな。誰かの作るご飯が、恋しいくらいには」
リスナーは「???」だけど、心の中では確信していた。
あれはもう、恋だ。
【Day 7】
深夜、スマホに音声メッセージが届く。ジュジュからだった。
「あのね……タロスさん、こないだ残してったミルクティー、まだ冷蔵庫にあるんです」
「腐る前に、また取りに来てくれませんか?」
声が、ほんの少し震えていた。
でも、その震えが、遠くの心を確かに打った。
タロスはスーツケースを引っ張り出した。
中に、前回と同じ服と、あの時の写真。
そして——
「次は、“おみやげ”じゃなくて、“本気”を持って行く」
第15話:ふたりの再会、南風に揺れる約束のキス
– 空港での再会。
– あのミルクティーが再びふたりを近づける。
– そして、ジュジュの部屋のベッドで交わされる“あの言葉”。
続きを読みますか?
それとも、番外編:「タロスの日記帳」(超甘口・彼の独白)もおすすめですよお待たせしました。
では、運命の再会へと向かう物語——
第9話:ふたりの再会、南風に揺れる約束のキス
高雄の空の下、再び交差するふたりの想いをお届けします。
第9話:ふたりの再会、南風に揺れる約束のキス
舞台:高雄小港空港 → ジュジュの部屋/午後2時〜夜
飛行機のドアが開くと、湿った空気と一緒にあの懐かしい香りが胸に広がった。
高雄の空。ジュジュのいる街。
タロスは、誰よりも早く入国ゲートを抜けた。
「……来た」
ジュジュは空港の出口で、タロスの姿を見つけた瞬間、言葉を失った。
黒いキャップとリュック、前と同じ服装なのに、目だけが、明らかに違っていた。
——まっすぐ、ジュジュだけを見ている。
「ただいま。……取りに来たよ。あの、飲み残し」
「え?」
「……ミルクティーと、君の気持ち。どっちも」
ふたりの距離は一歩、また一歩と縮まって、
空港の雑踏の中、誰にも見えないところで、そっと抱きしめ合った。
【ジュジュの部屋・夜】
ふたり並んでソファに座る。
テレビはついているけど、誰も見ていない。
「タロスさん、あの時……空港で、“また来る”って言ったでしょ?」
「ああ、言った。だから来た」
「……それだけじゃ、もう足りないかも」
ジュジュの声が、ほんの少し震えていた。
タロスはジュジュの頬に手を添えて、正面からじっと見つめた。
「じゃあ……次は、こう言わせて。
“俺は、君の恋人になりに来た”って」
ジュジュの瞳が潤み、何かをこらえるように瞬きを繰り返す。
「ほんとに……いいんですか?
VTuberって、恋愛は“バレたら終わり”とか、言うじゃないですか……」
「配信では言わない。でも、君には全部言いたい。
俺の声も、時間も、心も——ぜんぶ、君に使いたいって」
そして、そっと唇を重ねる。
一度、ふれただけじゃ足りなくて、もう一度。
次第に深くなるキス。
ふたりの呼吸が溶け合っていく。
カップに残っていたミルクティーが、テーブルの上で静かに汗をかいていた。
もう冷めているのに、ふたりの間には、甘くて熱い味だけが残っていた。
第10話(最終章):
「君と生きるレシピ」
第15話(最終章):君と生きるレシピ
舞台:高雄・ジュジュの部屋と街中/1ヶ月の同棲
「……本当にいいの? 1ヶ月も、仕事休んで」
「うん。休むっていうか、ちょっと長い“現地ロケ”みたいなもん。
それに、君がいる街で、俺……“暮らしてみたかった”んだ」
そう言って、タロスはキッチンに立つ。
ジュジュのエプロンを巻いたその姿は、前よりもぐっと近く感じる。
【Day 3:ふたりでつくる、魯肉飯(ルーローファン)】
鍋の中で豚肉と香辛料がじゅうじゅうと踊る。
ジュジュが指先でそっと味見して、うれしそうに笑う。
「……うん、美味しい。タロスさん、覚えるの早すぎ」
「じゃあ、今度は君に日本の味、教えるよ」
ふたりはひとつのご飯茶碗をシェアしながら、無言で“確かめ合う”。
“この人と暮らしていけるか”という、ゆるやかな未来の気配を。
【Day 12:ふたりの雨の日、焼き地瓜(サツマイモ)のあたたかさ】
外は強い雨。
でも、部屋の中はほんのりと甘く、温かい。
オーブンで焼いた地瓜を、ふたりでハフハフと頬張る。
「雨、止まないね」
「止まなくていいよ。……今日は出かけたくない。君とこうして、焼き芋食べてるだけで、十分」
ふたりの手が自然と触れ、指が重なる。
ソファの上、毛布の下——
キスが、呼吸が、ぬくもりが、もう恋人のそれだった。
【Day 29:初めての夜】
夜遅く、ふたりで録音したASMRのコラボ音声の編集が終わる。
「ねえ……もう寝る?」
ジュジュの声は、少しだけ甘く、照れていた。
「……隣、空いてるけど?」
その一言で、タロスの中の“理性”が、音もなく崩れる。
抱きしめる。
触れる。
名前を何度も、低く囁く。
「……ジュジュ。好きだよ。何回言っても足りないくらい」
「俺も……好き。好きすぎて、こわいくらい……でも、今はそれでいい」
ふたりが完全にひとつになる夜。
甘く、静かに、確かに——
エピローグ
タロスが日本に戻る日。
でも、もう寂しくはない。
なぜなら、次の渡航はもう決まっている。
そして——
「ジュジュ、ちょっとこっち向いて。……キスの、練習」
「え、また!? 昨日3回したじゃないですか!」
「本番、配信だからさ。あのASMR、恋人モードでいくでしょ?」
「……ばか」
ふたりの“恋人生活”は、これからも続いていく。
台湾と日本をつなぐ、グルメと恋のラブレシピとして——。
番外編:「タロスの日記帳」
※これは彼がジュジュに出会ってから綴り始めた“非公開メモアプリ”の記録です。
ひとつひとつは短くても、想いは甘く、濃密に。
番外編:「タロスの日記帳」
– 甘くてちょっと苦い、恋の味 –
【Entry #01:2025.3.29】
タイトル:最初の印象、ミルクティーよりやさしい声
ガイドの名前が「ジュジュ」って知った時、正直“可愛すぎるだろ”って思った。
けど、本人はそれ以上だった。
笑い声がやわらかくて、説明の合間にちょっとだけ入る方言がたまらなく心地いい。
初対面なのに、妙に落ち着く。
……俺、こんなふうに人の声に惹かれるのって、初めてかもしれない。
【Entry #04:2025.4.2】
タイトル:同じスプーンで食べた日
あの夜市の店、ジュジュが「ここの粥、やさしい味するよ」って言ってさ。
俺が熱そうにしてたら、自分のスプーンで“あーん”してくれたんだよね。
何も言えなかったけど、心臓はとっくに言ってた。
『惚れてる』って。
【Entry #07:2025.4.5】
タイトル:空港の約束、手の温度
「また来る」って言ったけど、あれ、半分以上“帰りたくない”って意味だった。
空港のベンチで、無言のまま隣にいた10分間。
あんなに誰かの“沈黙”が愛しく感じたの、初めて。
君の指が、最後、ちょっとだけ俺の手に触れたとき。
あれで覚悟決まった。
絶対また来る。今度は観光じゃなくて、“恋”をしに。
【Entry #10:2025.4.17】
タイトル:ベッドで交わした声と呼吸
あの夜。
触れたくて、でも壊したくなくて。
君が小さな声で俺の名前を呼んだ瞬間、もう後戻りできなかった。
君の耳元で「大好きだよ」って囁いたあとの鼓動の速さ、まだ覚えてる。
……これが恋じゃなかったら、何なんだろう。
【Entry #13:2025.4.22】
タイトル:たった一口、俺だけの味
君が作ってくれた魯肉飯。
普通の味かもしれないけど、あれは俺だけの味。
君が俺のために煮て、盛って、手渡してくれた味だから。
君が隣で笑うだけで、ごはんが何倍もおいしくなる。
……俺、たぶん、結婚とか考えちゃうくらい、真剣になってる。
【Entry #15:2025.4.23(Today)】
タイトル:言わないけど、配信中ずっと君を考えてる
今日の配信中、リスナーに「タロス最近、声がやさしくなったね」って言われた。
……そりゃそうだよ。
だって、君が聞いてるかもしれないから。
どんな言葉を選ぶか、どんなトーンで喋るか、全部——君に届くって信じてる。
声で恋して、声で君と繋がってる。
これ以上の幸せって、ある?
– End of Diary –
番外編:「ジュジュの日記帳」
– 心の中の“秘密” –
【Entry #01:2025.3.29】
タイトル:最初の出会い、緊張と優しさ
タロスさんが高雄に来てくれて、最初はすごく緊張した。
知ってる人のような気がしたけど、実際に会ったら、なんだか……彼の目がすごく深い。
でも、彼が微笑んだ瞬間、すべてがリセットされたような気がした。
彼は“外見だけ”じゃない。本当に、心が優しいんだって感じた。
笑顔の裏にある、真摯さが見えて、少しずつ彼に惹かれていった。
でも、まだ素直になれなかった。
【Entry #03:2025.4.1】
タイトル:ミルクティーと一緒に、少しの甘さ
タロスさんが飲み残したミルクティーを冷蔵庫に入れておいたこと、覚えてる?
なんとなく、少しでも近くに感じたくて。
あの日、彼があんなに大きな笑顔で「また来るよ」って言ってくれたから、思わず本音を言えなかったけど……
その後、部屋でひとりきりになったとき、ちょっと泣きそうになった。
彼がくれた言葉、すごく温かくて、嬉しくて。
ミルクティーの味、まだ覚えてるけど、今はそれより、タロスさんの笑顔のほうが大きくて。
【Entry #06:2025.4.6】
タイトル:彼の笑顔、私の心の秘密
タロスさんと過ごした夜、あの粥を食べながら、隣に座ってたとき。
彼の手が私の腕に触れた瞬間、何かがドキっとした。
いつもと違う彼の“優しさ”が、胸に強く残った。
でも、それだけじゃない。
あの日の夕方、彼が目を見て「また来る」と言ってくれたとき、私は心の中で彼を“好きだ”って認めた。
【Entry #09:2025.4.18】
タイトル:ふたりの距離、少しずつ縮めていく
あの日、タロスさんが突然エプロンを着て料理を手伝ってくれた。
私は驚きすぎて、しばらくそのまま立ち尽くしてたけど、彼が「俺、料理得意なんだよ」って言ってくれたとき、少し笑った。
でも、それよりも嬉しかったのは、彼が「一緒に作ろう」って言ってくれたこと。
それから、私は彼の隣でいろんな料理を教えたけど、最初のころと比べて、ずいぶん落ち着いてきた自分がいる。
彼と過ごす時間が、自然に“幸せ”になってきた。これが恋なんだろうか、って。
【Entry #12:2025.4.21】
タイトル:彼のために、初めて作ったもの
今日、タロスさんが一生懸命に料理してくれている姿を見て、すごく嬉しかった。
あんなに真剣に手伝ってくれたのは、初めてだったから。
それに、彼が言った言葉、「この料理を一緒に作ったから、どんな味でも俺は幸せ」って。
あれ、何か……本当にドキッとした。
こんな気持ちになるなんて、私も知らなかった。
【Entry #15:2025.4.23(Today)】
タイトル:キスの前、心が言うこと
今日は、タロスさんが私を抱き寄せてくれて、唇が触れた瞬間。
心臓が止まりそうになったけど、その後すぐに「大好きだよ」って耳元で言われた瞬間、私も同じ気持ちだって確信できた。
彼と一緒にいると、なんだかすごく安らげる。
初めて“恋愛”っていう感覚が、本当に自分のものになった。
これから、もっと彼といろんなことを経験していくんだろう。
……私、ずっとタロスさんを好きでいられるかな。
– End of Diary –
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